- 2013-07-30
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フロントランナーVol.20
「面白いから売れる」の発想で
世界に認められる電気自動車を開発
グリーンロードモータース株式会社 社長 小間 裕康
1977年生まれ。京都大学大学院経営管理教育部(MBA)修了。大学生の時代に人材派遣業を手がけ、2000年に株式会社コマエンタープライズを設立。年商20億円の企業に育てあげた。京大大学院に入学後は、電気自動車事業に関心をもち、2010年、グリーンロードモータース株式会社を創業(本社=京都市左京区)。2013年春には、国内ベンチャー初のスポーツカー・タイプの電気自動車を発売し注目を集める。
電気自動車ならベンチャーでもつくれる!
技術力と価格競争力で欧米勢を凌駕した日本の車は、家電とならんで「日本経済の代名詞」だった。まさに、自動車大国ニッポン――。しかし、近年は新興国メーカーの台頭などから、かつての輝きを失いつつある。そんな自動車業界にあって、京都に誕生したグリーンロードモータース株式会社(GLM)は電気自動車、それもスポーツカーにターゲットを絞り、世界に打って出ようとしている。電気自動車の魅力はどこにあるのか、世界と戦うために小間社長はどのような戦略を描いているのかを見ていこう。
いま、電気自動車に熱い視線が注がれていることは中学生・高校生のみなさんもご存じでしょうね。英語では「Electric Vehicle」と呼ばれ、EVと約されます。環境に優しい車として「プリウス」などハイブリッド車に注目が集まっていますが、ハイブリッド車でもガソリンは消費するので、ガソリンを一切使わないEVはもっと環境に優しい、といえるでしょう。以前は動力源であるバッテリー(=蓄電池。主にリチウムイオン電池)の性能が十分ではなく、それがEVの普及を妨げていました。ところがここに来て、バッテリーが小型化・大容量化し1回の充電で走る距離も飛躍的に伸びた。そうした追い風もあって、電気自動車の開発が一気に進みました。
みなさんは、「自動車って、つくるのが難しく、メーカーも大企業ばかり」というイメージをもっていませんか? たしかに、ガソリン車はそうなのですが、電気自動車は意外と簡単につくることができるんです。理由は、電気自動車の仕組みがガソリン車と比べ、とても単純だから。実は、電気自動車はバッテリーとモーター、それにタイヤと車体があれば動くんですよ。
「えっ、それだけ!」って驚かないでくださいね。実際は外部から電気を取り入れる充電器、アクセルやブレーキをモーターと連動させる制御装置、ハンドル操作をタイヤや車軸に伝えるシステムなども必要なのですが、イメージとしてはラジコンカーに近い。部品の数もガソリン車だと2万~3万点もあるのに対して、電気自動車だとその10分の1ほどですみます。しかも、部品の多くは既製品でまかなうことができる。だから、当社のようなベンチャー企業でも参入可能なんです。
私は、もともと人材派遣の会社を経営していました。学生のときに、芦屋のお屋敷にピアニストなど音楽家を派遣することから始めたのですが、徐々に仕事の幅を広げて、大学を卒業するころには大手家電メーカーとも取引きするまでになっていました。ただ、30歳を超えたころ、しっかりと経済や経営を勉強しなおしたいと思うようになったんです。いろいろ考え、京都大学のMBA(経営を専門的に学ぶ大学院)に入学。そこで、電気自動車に出会った。
当時、京大で産学連携による電気自動車開発プロジェクトが進められていたんですよ。授業でそのことを聞いた私は、電気自動車の魅力と将来性に強く関心をもった。先に書いたように電気自動車ならベンチャーでも挑戦できることを、このとき知りました。しかも、京都は部品メーカーが集積した土地で、外部の協力がとても得やすい。電気自動車なら面白いビジネスができるのではないか。可能性があるのなら、自分の手でやってみよう! 徐々に、その思いが強くなっていったんです。
スポーツカーで世界に打って出る
事業化に向けてリサーチを始めた当初、小間社長は小型の電気自動車を開発し販売することを考えていた、という。しかし、調査した結果、小型車ではまったく採算が取れないことがわかってきた。「やはり、中小企業では無理か・・・・・・」、そう思い始めた矢先、アメリカのベンチャー企業が高級車路線で成功していることを知る。そこから、「スポーツカーで世界に打って出る」という小間社長の戦略が生み出されたのだった。
構造が簡単で、資金力のない中小企業でも参入しやすい――それが電気自動車の魅力のひとつでもあったのですが、つくりやすいということは「大量生産がしやすい」ということでもあります。価格で勝負するような車だと、大手の自動車メーカーが本格参入し大量生産するようになったら、とたんに太刀打ちできなくなるわけです。「じゃあ、小さな会社では無理か」といえばそんなことはなく、アメリカでは電気自動車で成功しているベンチャー企業がありました。テスラモーターズという会社で、ここが販売したスポーツタイプの車(約1200万円)は非常によく売れていました。セダンタイプでも成功している。テスラのような付加価値の高い車だと、やりようによっては大手にも対抗できるし、十分、利益を得ることも可能です。
では、私たちはどんな車をつくっていく?
私が注目したのは電気自動車がもつ優れた加速性です、とくに発進時のそれ。たとえば、当社の『トミーカイラZZ』が時速100kmに到達する時間は3.9秒です。普通ガソリン車なら10秒、スポーツカーでも6~7秒かかります。車を運転したことのない中学生や高校生に説明するのは難しいのですが、これで得られる加速感は一部の人にはとても魅力的なんですよ。そんなすごい加速感が得られるのなら、少々値段が高くても払うだけの価値がある、と思ってくれる人はいる。要するに、「電気自動車ならスポーツカーの魅力を最大限に引き出せる」「加速感が楽しめるスポーツカーをつくろう」――そう考えたんです。
『トミーカイラZZ』は、この春(2013年4月)に販売予約を開始しました。もしかしたら「トミーカイラ」という名前を知っている人がいるかもしれませんね。実は、伝説の国産スポーツカーといわれる、その名前とスタイルをそっくりそのまま引継いだんです。全長3m87cm、全幅1m74㎝、全高1m14cmの2人乗り。価格は800万円で最高時速は180km、305馬力。1回の充電で約120km走り続けることができます。乗り心地ですか? 正直、快適にはほど遠いですね(笑)。ハンドルを回せば回すだけタイヤは切れるし・・・・・・。まあ、スポーツカーというのはこういうもの。運転は大変だけど、人馬一体ではなく「人車一体」で道路を走るところがいいんです。
こういう車を待っていた人がたくさんいました。「2013年中に99台」という目標に対して、販売初日に100件を超える問い合わせが寄せられた。6月末現在、契約に至った人も4割を超えています。目標は十分クリアーできるでしょう。また、海外からも多数、引き合いがきています。部品や整備の問題などがあって、「いますぐ海外に」というわけにはいきませんが、早くも世界への挑戦が視野に入ってきました。
ベンチャーの魅力は人と人とのつながり
電気自動車の注目は高まってはいるが、まだまだ日本では普及しているとはいいがたい。「ガソリンスタンドに代わる充電ステーションが少ないから」とも言われているが、都市部ではかなり充電施設が増えてきた。むしろ、問題なのは「魅力ある車を日本のメーカーが開発できていないことだ」と小間社長は言う。きちんとターゲットに合わせた商品を生み出せば、ドライバーの支持は得られる。それは『トミーカイラZZ』の成功が証明している、といえよう。
電気自動車でスポーツカーをつくろう! そう決めたのはいいものの、実際は苦労の連続でした。会社を起して苦労をするのは当然で、それがあるからこそ乗り越えたときに大きな喜びが得られるのですが、やはり挫けそうになったこともありましたね。一番難しかったのは協力工場の確保でしょうか。何しろ、名もない企業がいきなり「電気自動車をつくるから、部品を供給してくれ」ですから、尻込みされるのも当然です。それでも日参し電気自動車の将来性を説くうちに、OKと言ってくれるところが出てくる。こちらの熱意が伝わったのでしょう。そうやって少しずつ前に進めていきました。
実は、『トミーカイラZZ』の特長はスポーツカー・タイプである、ということだけではありません。ラジコンカーのように上の部分(外装)がなくても走ることができるよう工夫を凝らしたんです。この下の部分、「車台」といいますが、これだけで剛性、強度という安全性を確保しています。こうすることで車体を大幅に軽量化しました。重量は軽自動車以下の850㎏。だから、スピードも出るし、走行距離も伸びた。コストダウンを図ることもできるようになりました。こうしたことができたのも、外部の人の協力があってこそなんです。本当にいろいろな人に助けてもらいました。
いま開発に苦労した話をしましたが、苦労はどのベンチャー企業も同じでしょう。それも、並大抵の苦労ではありません。ただ、苦労したからこそ見えてくるものがあって、私の場合のそれは「人と人とのつながり」だった。協力工場も現在約30社になりました。なかには「利益は度外視してでも、小間さんと取引するよ」と言ってくれる会社もあります。そうした人との縁がどんどん大きくなっていくのが、手に取るようにわかるんですね。正しい表現ではないかもしれないけど、スポーツカーに乗ってドライブしているような感覚(笑)。本当に刺激的なんですよ。だから、これからもみなさんがびっくりするような車をつくっていきたい。そして、つながった人たちと喜びを分かち合いたいと思っています。
どうですか? 私たちがつくった車に興味をもってもらえたでしょうか。この春に大阪駅前にできた商業施設「グランフロント大阪」の中にエキシビションブースを設けました。ぜひ『トミーカイラZZ』を見に来てください。最近の若い人は「車に興味がない」「車離れだ」などと言われていますよね。一人でも多くの人が『トミーカイラZZ』を見たことがきっかけで「車に乗ってみたい」と思ってもらえるようになったら、本当にうれしいと思っています。
《文=WAOサイエンスパーク編集長 松本正行》