• 2013-08-12

フロントランナーVol.21

爆発だらけの星・太陽が地球に与える影響
~巨大フレアと地球“寒冷化”を考える

京都大学理学部 教授 柴田 一成

1954年大阪生まれ。京都大学理学部卒、同大学院理学研究科博士課程中退。国立天文台助教授などを経て、1999年、京都大学大学院理学研究科付属天文台の教授に。現在は、理学部(大学院理学研究科)教授とともに天文台台長も務める。日本における太陽研究の第一人者で、太陽現象に関するさまざまな理論を提唱。著書に『太陽の科学』(NHKブックス)『太陽 大異変』(朝日新書)『最新画像で見る太陽』(オノオプトニクスエナジー出版局・共著)などがある。

太陽の爆発で起きる磁気嵐

何十億年にわたって、私たちに恵みをもたらし続けている太陽。従来は「静かに光り輝く星」であると考えられていたが、近年の観測技術の向上と研究の進歩によって、そのイメージは一変した。太陽はむしろ「激しく爆発を繰り返している星」であり、そのことが私たちの生活に大きな影響を与えることがわかってきたのだ。一方で、地球に寒冷化をもたらす可能性があることも指摘されている。太陽活動によりわれわれを取り巻く環境はどう変わろうとしているのか――京都大学の柴田先生と一緒に、最新の太陽研究を見ていこう。

 あらゆる天体の中で、太陽ほど私たちと密接な関係をもつ星はありません。もし、太陽が消えてなくなれば、私たち人類はじめ地球上のあらゆる生命は生きていけないでしょう。でも、太陽は変わらず光り輝いてくれるから大丈夫――そんなふうに、みなさんは考えているかもしれませんね。太陽研究はここ数十年で飛躍的に進歩し、従来とはかなり異なる太陽の姿が明らかになっています。と同時に、「大丈夫だ」と安心してばかりではいられないこともわかってきました。
 ここで私は、2つのことをお話しするつもりです。まずは巨大爆発に対する備え。もうひとつは、太陽活動がしばらくの間、弱まる可能性がある、つまり「地球は温暖化ではなく寒冷化に向かうかもしれない」という点についてです。中学生や高校生には、それらをしっかりと理解してもらいたいと思っています。
 まず下の動画をみてください。これはNASAが撮影した太陽表面の様子ですが、巨大な爆発が起こっているのがわかりますよね。

 こうした現象はのちに詳しく述べますが、決して珍しいものではなく、ごくごく当たり前のように起こっています。「フレア」と呼ばれており、これが起きると強い紫外線やX線が放出されます。また、激しい爆発によって太陽表面にあるプラズマが宇宙空間に飛び出て行きます。「プラズマ」という言葉はみなさんも一度は聞いたことがあるでしょうね。原子核と電子がバラバラの粒子になってしまう状態のことをいい、太陽のプラズマの場合は高温が原因でそのような状態になります。比較的よく聞く言葉なので、これを機会に覚えておいてください。いずれにしろ、紫外線やX線、プラズマの一部が太陽表面の爆発によって大量に地球にもたらされ、時に私たちに大きな被害を与えるのです。
 では、なぜ太陽表面の爆発によって、遠く離れた地球で被害が生じるのか?
 太陽表面からは太陽風と呼ばれるプラズマの風が常に吹いています。一方、みなさんご存じのとおり地球自体が巨大な磁石で、磁気に覆われた磁気圏というものを形成しています。磁気圏があることで太陽風の進路は曲げられ、地球に直接、入り込むことができなくなっているのです。もし、磁気圏という盾がなければこれほどまで生物が繁栄することはなかったでしょう。しかし、巨大な爆発によっても大量のプラズマがもたらされると、その盾が大きく揺さぶられるのです。これを磁気嵐と呼び、爆発から数日で起こります。
 具体的には、揺さぶられることで送電線に大量の誘導電流が流れ出し、送電設備などに障害が起きます。また、長距離通信は電離圏と呼ばれる場所のプラズマを利用しているため、それが乱され通話などが難しくなってしまいます。カーナビも機能しなくなるし、携帯電話も通じない。人工衛星は故障するかもしれない・・・・・・被害は停電だけにとどまらずさまざまなところに及ぶのです。
 ちなみに、オーロラは磁気圏に取り込まれたプラズマの粒子が大気に降り注いで起きる現象なので、太陽で巨大な爆発が起きれば、北極や南極だけでなく比較的緯度の低いところでも観測できるようになるでしょう。1859年に起きた巨大なフレアでは、ハワイやキューバでもオーロラが見えた、という記録が残っています。

スーパーフレアで都市は大混乱に!

最近では1989年3月に、巨大なフレアによってカナダのケベック州で大停電が引き起こされた。600万人に影響が及び、停電は9時間も続いた。町全体が受けた経済的損害は100億円を超える、といわれている。このクラスのフレアは年に平均3回近く起きており、たまたま太陽と地球の位置関係で大きな被害につながったのだが、さらに大きなフレアは過去に何度も発生している。滅多に起きるものではないが、起きたときの影響はそれこそ計り知れない。

 過去の記録から判明しているフレアの規模ごとの発生頻度を見てみましょう。Cの10倍がM、Mの10倍がXです。ちなみに、カナダに大きな被害をもたらしたものはXの約5倍、「X5弱」でした。
・Cクラス=1年に1000回
・Mクラス=1年に100回
・Xクラス=1年に10回
・X10クラス=1年に1回
 実は、X10クラスにとどまらず、X100、X1000といったクラスのフレアが起こる可能性もあるのです。これらを「スーパーフレア」と呼びます。
 従来、スーパーフレアは原始星で起こるもので、すでに壮年期に達した太陽とは関係ない、と考えられていました。しかし、私たち京都大学のグループが、X100、X1000クラスのフレアが148個の太陽によく似た星で365回起きていることを発見したんです。それにより、これまで「スーパーフレアは太陽とは無縁」という常識が覆った。実は、この観測には学部の学生も参加し、世界的に権威ある雑誌に名前が出たことでも話題になったんです!
 私たちの観測でも、スーパーフレアの発生頻度は800~5000年に1回なので、すぐに起きるというわけではありません。しかし、1000年に1回程度といわれる大地震が私たちの身近で起きたのですから、決して「遠い未来の話」で片付けはいけないでしょう。たとえば、X1000クラスのスーパーフレアが発生したら、どんなことが起きるのかシミュレートしてみると、こうなります。
 地上の各地で電波通信障害が発生、運行中の旅客機は目的地の空港と連絡がとれず立ち往生する。国際宇宙ステーションの中の宇宙飛行士は、大量の宇宙放射線を浴びたので、非常に危険な状態だろう。放射線の影響は人工衛星にも及び、ほぼすべてが使用不可能に。カーナビも携帯電話も使えない。さらに、大規模な停電が発生。夜は真っ暗になった。文明の利器に頼った都市は大混乱に陥る。最も心配されるのは原子力発電所。電源が喪失してしまった状態で、どれだけの時間、持ちこたえることができるのか・・・・・・。
 これは、決してSFではありません。細かな部分で間違いはあるかもしれませんが、何も対策を採らなければ社会が大混乱に陥ることだけは間違いありません。こうした事態に備えて、どんな対策を打っていけばいいか。それは若いみなさんも一緒になって考えてもらえたら、と思っているんです。

(太陽黒点の数の推移)

黒点が減少すると地球を大寒波が襲う!?

私たち人類が太陽の観測を始めてから約400年が経つ。科学的に観測を始めたのはガリレオ・ガリレイで、彼が自作の望遠鏡を使って、太陽の黒点を観測したという話を知っている人も多いだろう。以来、現在に至るまで黒点の記録は取られ続けており、「11年周期」で黒点の数が多くなったり少なくなったりすること、黒点の増減が気象に影響することなどがわかっている。実は、その黒点の数に最近、異常が見られるようになった、というのだ。それは何を意味しているのだろうか?

 黒点は、地球を1個丸々飲み込むくらいの大きさがあります。周囲の温度(約6000度)とくらべて低いため(約4000度)、黒く見えるのですが、その正体は「磁力線の束」の切り口。つまり、黒点は巨大な磁石なんです。磁石だから、NとSの2つがセットになって表れます。また、磁石であることにより太陽内部の熱が伝わりにくく、それがために温度が低くなっていると考えられています。
 黒点もフレアと同じで発生メカニズムなど「わからないことだらけ」なのですが、長年の観測の蓄積によって、次に何が起こるかをある程度、予想することは可能になっています。具体的に言うと、黒点の数が減ると太陽活動が弱まり、黒点の数が増えると太陽は活発になる。そしていま、黒点の観測から、太陽の活動は弱まっていくのではないかと考えられるようになっているのです。
 2004年から2010年までの間で、黒点がゼロだった日は836日にものぼりました。とくに2007年の半ばから09年にかけ、黒点がほとんど現れない時期がありました。「11年周期」のちょうど底の部分にあたってはいたものの、本来なら2008年には黒点は増加に転じるはずなのに、そうはならなかった。増加に転じてからも予想をはるかに下回る数しか黒点は表れていません(上図参照)。
 黒点の数が少ないときは地球の気温が低下することがわかっています。つまり、いまの太陽の状態は、地球が寒冷化に向かう可能性があることを示しているわけです。研究者によっては「マウンダー極小期の再来」を懸念する人もいます。マウンダー極小期というのは、1640年代から1710年代にかけて、黒点がほとんど見られなかった時期を指します。温度計のないときなので正確な記録は残っていませんが、木の年輪の幅から他の時期に比べ気温が低かったことはわかっています。ロンドンのテムズ川が凍りついた様子を描いた絵も残っているので、ヨーロッパの広い範囲が寒波に襲われたことは間違いないでしょう。私自身は、マウンダー極小期まではいかないまでも、「ダルトン極小期」くらいにはなるのではないかと見ています。1790年代から1820年代にかけて太陽活動が弱まった時期で、有名なナポレオンのロシア遠征(=冬将軍に立ち往生した)がこのころ。このような寒冷化に向かう可能性が極めて高い。
 その一方で、地球温暖化が指摘されていますよね。たしかに、地球は100年間で平均気温が0.6度上昇しました。そして、それは私たちが人間が排出したCO2の影響が大きいとされています。しかし、過去100年間はそれを含む1000年の間でも黒点の数がとても多く、気温の上昇が太陽活動の活発化によるものである可能性も否定できません。そして何よりも、CO2の削減は地球寒冷化を促進することにつながるかもしれないわけです。いずれにしろ、将来を正しく予測し備えるためには、自然現象の原理をしっかり、そして冷静に理解することが必要です。そうやって初めて合理的な判断ができることを、ぜひ、中高生には知っておいてほしいですね。
 どうですか? 太陽の研究がとても面白く、意義深いものであることがわかってもらえたでしょうか。宇宙天気予報だとか、スーパーフレアと生物進化の問題だとか、もっともっとお話ししたいことがあるのですが、残念ながら紙幅の関係でこのくらいにしておきます。詳しく知りたいという人はぜひ、最近出した下の本やプロフィールで紹介している本を読んでくださいね。
《文=WAOサイエンスパーク編集長 松本正行》

柴田一成先生の著書『太陽 大異変』
朝日新書、798円(税込み)

柴田先生のWebサイト

京都大学天文台のWebサイト

 NPO法人「花山星空ネットワーク」(観測イベントなどが紹介されている)