• 2013-12-11

科学部探訪

研究内容は大学レベル!
権威ある国際科学イベントで特別賞を受賞

広島県立府中高校物理部

日本の将来を担う多くの科学少年・少女たちが、全国で活動している。今回は広島県の県立府中高校を訪問した。この春、同校の物理部の3年生と大学生のOBが、アメリカで実施された国際的な学生科学イベントに参加、みごと特別賞を受賞した。大学レベルの研究とプレゼンテーションに磨きをかけた成果。「自分たちの研究が日々進化しているのがわかるところが魅力」という物理部メンバーの活動を見ていこう。

身近なテーマを大学レベル内容で探求!

 明治45年に開学した高等女学校と、大正10年に誕生した旧制中学をルーツにもつ広島県立府中高校。伝統ある同校に、ことし(2013年)の5月、大きなニュースがもたらされた。
 3年生の佐藤友彦さんと卒業生で大学生1年生の四茂野(よもの)貴大さんが、アメリカ・アリゾナ州で開催された学生科学イベント「ISEF2013(国際学生科学技術フェア)」において、米国物理探査学会チーム賞を受賞(米国音響学会賞の佳作も同時受賞)。世界的にも権威のある大会での受賞という快挙だ。
 府中高校の物理部は部員数10名(3年3名、2年6名、1年1名)の小所帯。しかし、活動の内容は高度で、優に高校の教科書内容を超える、という。大学レベルの研究を行い、学生を対象とした科学イベントでは最も歴史の古い「日本学生科学賞」の最終審査出場(毎年12月に開催)を目指している。
 研究テーマは、顧問の岡本淳平先生の意見も聞きながら、最終的には部員たちで決めるそうだ。たとえば、「ボールをバットの芯で当てたらなぜ、遠くまで飛ぶのか?」や「弦楽器の弦をはじいときと、弓でひいたときの音の違い」など。一番新しいテーマは「くぼみがある坂から水を流した場合、少しだけ水がたまるのかなぜか」だ。「身近にある現象が、なぜそうなるのか、調べるのが楽しい」(2年生・中谷隼大さん)。チームに分かれて研究を進めるときもあれば、全員で取り組むケースもある。
 実験を繰り返してデータを蓄積、ビデオを使って映像を分析することも多い、という。集めたデータはパソコンを使ってグラフをつくるなどして解析していくのだが、当然のことながら、いつも思い通りの結果が出るわけではない。「そんなときは、みんなで意見を出し合って実験の仕方を考えるんです」と2年生の山田智也さん。闇雲に実験をしてもダメで、侃侃諤諤(かんかんがくがく)、意見を戦わせていくうちに「何かブレークスルーのようなものが見えてくる」(2年生・花見堂大輔さん)そうだ。
 佐藤さんと四茂野さんの研究も、こうした物理部での活動を通じて磨いたものだった。

(身近な現象を物理の力で解明する)

動かした棒の波はなぜ曲がってみえる?

 さて、3年生の佐藤さんたちだが、2012年12月、目標としている日本科学賞の最終審査への出場を果たし、文部科学大臣賞を受賞した。それを受けて、他の6名の高校生と一緒に「ISEF2013」の日本代表(ファイナリスト)に選ばれたのだった。
 テーマは「動く棒が水面に描く波模様の研究」。水鳥が泳ぐ姿から発想を得て、水面に垂直に立てた棒を横に引いたとき、「波の一部が角度をつけて曲がるのはなぜか」を調べた。具体的には、角度がつくのは水面にへこみができるためで、それが原因で「曲がるのではなく、曲がって見える」ということがわかった。何度も映像を撮り、高度な数式を駆使してグラフをつくり、そのような結果を導き出したのだった。
 「光の当て具合が悪いときれいに波の様子を撮影することができないんです。どうやれば思い通りの画像を撮ることができるか、そこにいちばん苦心しました。グラフ化する際の式も複雑で、かなり難しいプログラミングをしなくていけません。ここは、一緒に研究した四茂野先輩が担当してくれました。二人三脚でやったからこそ、いい研究成果を出せたのだと思います」
 と佐藤さん。一方、ISEF2013のほうは?
 「国際大会なので説明のポスターも、質問の応対も当然、英語。英語はあまり得意なほうではないので、いままでに経験したがない量の英文を書くのには骨が折れました。でも、意外と質問にはうまく対応できたと思います。それより何より、世界中の人と交流できたのはいい経験でした。片言の英語でも、積極的に話すことが大切なのだということを痛感しました」
 佐藤さんは、大学では新素材の研究をしたいという。今回、取材に参加してくれた2年生の3人もそれぞれ研究者、プログラマーなど科学・技術の道に進みたい、と希望を語ってくれた。佐藤さんに続いて、日本の多くの高校生・中学生が、世界の人たちと交流し成長することを期待したい。

(ISEF2013にて。左が佐藤さん、右が四茂野さん)