• 2014-04-13

科学部探訪

全国屈指の「缶サット甲子園」強豪校
“逆噴射”の成功で優勝を目指す

和歌山県立桐蔭高校科学部「缶サット班」

広い日本にはすごい科学部がまだまだある! 今回は訪問したのは和歌山県の県立桐蔭高校だ。空き缶サイズの模擬人工衛星――缶サットと呼ばれるそれの、技術力や独創性、プレゼン力を競う「缶サット甲子園」の全国大会常連校で、過去には優勝と準優勝をそれぞれ1度輝いている。ことしも目指すは日本一だ! 缶サットとはどんなものなのか、それに取り組む難しさや喜びは……缶サットの魅力に取りつかれたメンバーの活動を一緒に見ていこう。

第1回大会から連続して全国大会に出場

 「缶サット」をご存じだろうか? 空き缶サイズの大きさの模擬人工衛星のことで、もともとは日本やアメリカの大学が研究のために製作を始めた。高校でもそれに取り組むところが増え、2008年から技術力などを競う全国大会「缶サット甲子園」がスタート。今回訪問した和歌山県立桐蔭高校はその常連校で、第1回大会から1度も欠かすことなく全国大会に出場、2010年には優勝、2011年にも準優勝を果たした強豪校でもある。
 何はともあれ、「缶サット甲子園」とはどんな大会なのか。まずは、概要を説明しよう。
 高校生が自作した缶サットおよびキャリア(缶サットを搭載する機構)を打上げ、上空での放出・降下・着地の過程を通じて、技術力・創造力を競うのが「缶サット甲子園」である(『缶サット甲子園』のWebサイトより)。下の図のようにキャリアの中に缶サットを入れ、それをロケットで打ち上げる(①、ロケットは大会本部が用意)。キャリアは上空数百メートルで放出(②)、さらにキャリアから缶サットが出て(③)、缶サットが地上に着くまでにデータを収集(④⑤)という流れになる。
 ちなみに、缶サットの大きさは直径146ミリ以下、長さ240ミリ以下、重さは1050グラム以下だ。前回の2013年大会には、地方大会に32校が参加、うち11校が全国大会に進んでいる。
 競うのは、何を目的にどんなデータを集めるかの「ミッション」、具体的にどのようにしてデータを集めるかなど技術の「独創性」、そして打ち揚げ前と打ち上げ後に行う「プレゼンテーション」の3つ。その総合力で評価される。
 前回大会での桐蔭高校のミッションは、着陸するまでの間の高度と温度のデータを集めて無線で飛ばし、リアルタイムでグラフにするというものだった。さらに、地上20メートルのところでロケット花火のようなものを使って逆噴射し、着陸の衝撃を和らげる予定だったが、残念ながらこのプランは失敗。そのこともあり、この大会では優勝を含めた各種賞の受賞は逃してしまった。


(図版提供「理数が楽しくなる教育」実行委員会)

難しくて大変だけど得られる達成感が魅力

 現在、同校缶サット班のメンバーは3人(2014年3月末現在)。中学・高校合わせて50名の大所帯で7班ある科学部のなかでは最も小さいチームである(同校は中高一貫校。班は全部で7つ)。というのも、「すごく大変だから」(2年生の鶴田曙也さん)だという。
 8月に開かれる全国大会に向けて、準備は2月ごろからスタートする。ミッションを考え、そのためにはどんな技術が必要かを検討、そして試作、実験……一度で成功することはほとんどなく、どこがおかしかったのかを調べ、再度、検討し試作し実験。7月の地方大会が近づくと最終帰宅時刻である19時までの作業が連日のように続く。
 「面白いアイデアが浮かんでも、それを実現させるのは簡単ではない」と語るのは同じく2年生の喜多大樹さんだ。まずは、プログラムの作成が難しい。独創的になればなるほど困難の度合いは増す。こうやれば動くはずと思って組んだところ、想定どおりになってくれない。「どこに間違いがあるのか、それを探すのも大変」(プログラム担当の2年生・北村健浩さん)なのだ。さらには、プログラムとハードがうまく連動しないといけない。連動ミスで、自作するキャリアが開かず、そのまま落下ということもあり得るのだ。越えなくてはいけない壁は、それこそ山のようにある。
 それでも、缶サットに取り組むのはなぜ?
 3人揃って「やり遂げたという達成感があるから」と語ってくれた。キャリアから缶サットが放出され、パラシュートが開く。データも大丈夫、そして無事に着地。わずか30秒ほどの間に、何度もドキドキする、それ自体が快感なのだ。
 「これだけ難しいことをやり遂げても、正直、受験勉強にはあまり役に立たないでしょう。でも、社会人あるいは技術者・研究者になるための勉強にはものすごくなりますね」(顧問の藤木郁久教諭)
 今年(2014年)の目標は、もちろん2010年以来の全国優勝だ。前回失敗した逆噴射は、今度は手動ではなく、自動で行う予定だ、という。数年前までどこも採用していなかったという無線によるデータ送信がいまや標準に。高校生のレベルは、大会関係者もびっくりするほど早い。そんななか、桐蔭高校の3人はライバルとの競争に打ち勝ち、優勝を果たすことができるのか? 注目の全国大会は8月に秋田県で行われる。

※取材のあと、12名の新入班員が入ったそうです。
※缶サット甲子園のWebサイト

http://www.space-koshien.com/cansat/

※2012年には桐蔭高校科学部の部員たちが
 「宇宙部」の部員として清涼飲料水のCMに出演しました。