• 2014-08-25

フロントランナーVol.42

宇宙にあふれる惑星系
果たして地球以外にも生命は存在するのか

東京工業大学地球生命研究所 教授 井田茂

1960年生まれ。京都大学理学部卒。東京大学大学院修了。東大助手を経て93年、東京工業大学理学部助教授に就任。2006年、同教授。2013年より地球生命研究所の教授(副所長)を務める。『惑星学が解いた宇宙の謎』『系外惑星-宇宙と生命のナゾを解く』『スーパーアース』など著書多数。

見つかった系外惑星はすでに2000個!

「系外惑星」という言葉を聞いたことがあるだろうか? 太陽系の外にある惑星のことで、いまのその研究が急速に進歩している。実は、太陽系以外にも惑星が存在することが証明されたのは、20年ほど前でしかない。しかも、発見された多くの惑星は、私たちの想像をはるかに超えた姿をしていた……。そこから見えてくるものは何か。また、地球以外の星にも生命は存在するのだろうか。系外惑星研究の第一人者である東京工業大学・井田先生と一緒に、宇宙そして生命の不思議に迫ってみよう。

 宇宙からだと地球(=惑星)は輝いて見えますが、地球が自ら光っているわけではありませんよね。太陽(=恒星)の光が反射しているからです。と同時に、太陽の光の強さと地球のそれでは、比べものにならないくらい太陽のほうが大きい。自ら光を発しない惑星がある程度の明るさを保つためには、恒星の近くにいなくてはいけないのですが、近いと今度は恒星の光が強すぎて、恒星と惑星の光を見分けることが難しくなります。そのような理由から、なかなか系外惑星は見つからなかったのです。初めて発見されたのは1995年、いまから20年ほど前のことでした。
 その後、観測技術が進歩し、続々と系外惑星は発見されています。とくに、2009年にアメリカが打ち上げた宇宙望遠鏡「ケプラー」の威力は絶大で、いまでは確認済みの星が約2000、系外惑星ではないかと考えられている「候補の星」が約3000にものぼっています。しかも、ケプラーは白鳥座方向のごくごく一部を見ているだけにすぎないんです。ケプラー並みの威力をもち、全天を観測できるような装置ができたら、果たして発見される系外惑星はどれくらいの数になるでしょう。現在では夜空に見える星の大半に惑星があると考えられるようになっています。私たちが住む天の川銀河には数千億個の恒星があると考えられていますから、天の川銀河だけでも少なくともその数倍の惑星が存在することになります。
 さて、系外惑星を調べていくと意外なことがわかってきました。太陽系では、中心星である太陽の近くに地球のような岩石でできた星があり(水星から火星まで)、中間に木星、土星といったガスでできた巨大な惑星があって、一番外側に氷でできた天王星と海王星があります。さらに、どの星もきれいな同心円を描いて公転しています。これらに基づいて、どのようにして惑星系が形成されるのかが研究されていたのですが(これを、惑星形成理論といいます)、実際には、太陽系からは想像もつかない星が次々と見つかったんです。
 たとえば、「ホット・ジュピター」。水星と太陽の距離よりも内側をグルグル回っている、木星と同じくらいの巨大なガス惑星がいくつも確認されています。中心星に非常に近い高温域を周回しているから、そのように名づけられました。また、「エキセントリック・ジュピター」というものもあります。エキセントリックは通常「風変わりな」という意味ですが、天文学では「楕円軌道」を指します。この惑星のなかには楕円も楕円、放物線に近い長楕円軌道を描くものもあるんです(下図参照)。さらに、他の巨大な惑星の重力によって弾き飛ばされ、まさに宇宙を漂っている「浮遊惑星」や、表面すべてが水に覆われていると想像される「オーシャンプラネット」、中心星の自転とは逆方向に回る「逆行惑星」なども見つかりました。
 それにしても、ひとつしか例を知らないというのは恐ろしいことですね。それが普遍的なものだと思い込んでしまうのですから。惑星系などその最たるもので、私たちは「惑星は円で回るのが当たり前」と思っていましたが、宇宙では楕円軌道を描く惑星のほうがはるかに多かった。むしろ、私たちの太陽系の星々のほうが「風変わり」ともいえるわけです。

超大型望遠鏡の完成で惑星の姿が直接見られるように

では、どのようにして“プラネットハンティング”は行われているのだろうか。最もオーソドックスなのは、直接、惑星の姿を観測する方法だ(=直接法)。しかし、先に井田先生が述べたように惑星の淡い光と恒星(中心星)の光を見分けるのは難しい。技術が進歩し直接法でも系外惑星が発見されるようになったが、その数はまだわずか。現在の主流は間接法と呼ばれるやり方だ。惑星が回ることで生じる「恒星の光の変化」を捉えるというものである。

 たとえば、ドップラー法という手法があります。近づいてくるパトカーのサイレンは高い音なのに、目の前を通り過ぎ遠ざかると急に音が低くなりますよね。ドップラー効果と呼ばれるものですが、これを利用し、恒星から来る光の色の変化を観測します。
 太陽のような恒星は一か所にとどまっているように見えますが、実は惑星の影響を受けて小さな円を描いて回っているんです。ハンマー投げを思い出してください。ハンマーを回すときに選手も少し身体を傾けて円軌道を描きますよね。「ふらつく」といったほうがわかりやすいかもしれませんが、それと同じで、仮に太陽と同じ大きさの中心星の周囲を木星のような巨大な惑星が公転した場合、中心星は0.005天文単位(1天文単位は地球と太陽との平均距離)の半径を回ることになります。そのような周回によって、中心星は私たちに近づいたり遠ざかったりするんです。このとき、光も音と同じ波なので“見かけの波長”が変化する。波長が変化することで、光は周期的に青くなったり赤くなったりします。その変化を観測し「惑星がある」と判断するわけです。
 もうひとつの有力な観測のやり方に「トランジット法」があります。トランジット、つまり中心星の前を「通過」「横断」する惑星を観察するというもので、こちらは「食」を利用します。たとえば、金星が太陽と地球の間に入り、太陽面の一部を金星が隠す現象があります。金星食といい、その際、太陽の見かけの明るさは0.01%弱くなるんです(0.001等級の減光)。ほんのわずかな変化なのですが、うまい位置関係で惑星が中心星をときどき隠しているのを見つければ、そこに惑星があることがわかります。木星クラスの惑星が太陽を隠したら1%の変化。実は、アマチュア天文家が使う小型の望遠鏡でも、この程度なら読み取ることは可能なんですよ。恒星、惑星、地球の3つがうまい位置関係になる確率は低いので、簡単ではないものの、根気強く観測すれば、みなさんでも系外惑星を見つけることはできるでしょう。
 ところで、地上だと空気の流れなどで星がまたたき食の検出の邪魔をされてしまいます。しかし、宇宙空間だとそれがなく、減光観測の精度を上げることができます。先に紹介したケプラー宇宙望遠鏡はまさにそれを狙った人工衛星で、ケプラーはトランジット法の精度を格段に向上させました。そのことにより、地球サイズの惑星の発見も相次ぐようになったわけです。
 その一方で、直接法による系外惑星の観測に向けた巨大な望遠鏡づくりもスタートしました。望遠鏡の名前は「TMT」。次世代超大型望遠鏡の頭文字を取ったもので、日本、アメリカ、カナダ、中国、インドの大学・研究機関が進めています。2022年度の完成予定で、反射鏡の大きさは30m! あの「すばる望遠鏡」の鏡の直径が8.2mで、その3倍以上ですから、すごいでしょ。集光に関しては10倍で、いままで見ることができなかった遠く暗い天体の観測も可能。しかも、このクラスの望遠鏡だと惑星の大気の組成もわかるんですよ。現在のところ直接、姿を撮影できた惑星はほんのわずかにすぎません。TMTが完成し(他にもヨーロッパの国々が同様の望遠鏡「E-ELT」を計画しています)、その数がさらに増えた暁には、いまでになかった「新たな惑星像」が描かれるかもしれません。

地球以外にも生命は存在する?!

先に井田先生が話をされたように、宇宙望遠鏡「ケプラー」の登場で地球型惑星(岩石惑星)が次々と発見されるようになった。私たちの天の川銀河だけでも数千億個以上はあると推定されている。そうなると、それらの星々には果たして生命が存在するかどうかが気になるだろう。いや、むしろないほうがおかしい……。「第二の地球」はあるのだろうか? それを見つけることは可能なのか?

 ここ数年、新聞やネットなどで地球型の系外惑星のニュースを見ることが多くなりました。「スーパーアース」という言葉を聞いた人もいるでしょうね。地球よりも少し重たい惑星、5倍から10倍程度の質量をもつ惑星をこのように呼んでいます。
 ただし、スーパーアースのなかでも生命がいる可能性があるのは、ごく一部です。生命が生存するためには「ちょうどよい距離」、恒星から離れている必要があります。近すぎると金星のように、水があったとしても蒸発してしまうし、逆に遠いと水は凍りついてしまいます。地球のように表面に海があってもおかしくない場所というのは意外に狭いんですよ。さらに、天体の質量も重要で、たとえば月は地球とほぼ同じ位置にありますが、質量が80分の1しかないので、大気があっても宇宙空間に逃げてしまいます。火星も同様で、地球に比べて10分の1の質量しかないため、しっかりと大気をつかまえることができませんでした。逆に重ければ重いで、周囲のガスを集めて巨大なガス惑星になってしまうんです。
 これらの条件に当てはまるのが、上の図にある「ハビタブル・ゾーン」。もちろん、宇宙にはそれこそ“星の数”、地球型惑星が存在することがわかってきましたから、ハビタブル・ゾーンに入る惑星が存在してもおかしくありません。実際、そうした星は多数見つかっており、この春(2014年4月)には、ほぼ地球と同じサイズ(地球の1.1倍)の惑星も発見されました。いまや、天文学者の雰囲気は「バクテリアのような生命なら、あちこちの系外惑星にいるだろう」です。TMTによって大気の組成が詳しく観測できるようになれば、酸素やメタンなど生命が存在する可能性をしめす証拠(化学的な平衡からずれた大気組成。これらを「バイオマーカー」といいます)も見つかるでしょう。
 もちろん、私たちと同じような知的生命がいるかどうかは別問題で、文明を生み出せるような生物にまで進化するには、さらにいろいろな条件が必要であることが、最近の研究で示唆されています。たとえば、私たちの地球は過去、何度か全球が凍結するという事態に見舞われていますが、こうした過酷な環境にさらされたことが生命の進化を促したと考えられるようになってきました。
 冒頭でお話したように、系外惑星が発見されたのは、わずか20年ほど前でしかありません。だから、まだまだ新しい学問分野です。でも、いま見たようにとてもエキサイティングな分野でもあります。と同時に、若い人たちが活躍できる分野! たとえば、TMTの計画などは、私よりもずっと若い30代40代の研究者が中心になって進めているんですよ。この記事を読んでくれた中学生、高校生にも興味をもってもらい研究を進めて欲しいですね。期待しています。
《文=WAOサイエンスパーク編集長 松本正行》

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