• 2012-11-26

フロントランナーVol.6

ソーラーカーの世界大会5連覇の偉業を達成
研究・開発の成果を未来に活かす

東海大学工学部 教授 木村 英樹

1964年生まれ。東海大学卒。東海大学大学院工学研究科修了。東海大学工学部助手、講師、助教授を経て、2007年教授に。現在、東海大学チャレンジセンターの次長も務める。研究テーマはソーラーカーの開発、高効率モーターの開発など。東海大学のソーラーカーチームの監督として、世界的なレースで連続優勝。著書に『ソーラーカーで未来を走る』がある。

設計から製造まですべてを学生が

2012年9月28日、南アフリカで実施された世界最長のソーラーカーレースにおいて、東海大学チームがトップでゴールした。これで、この大会3連覇。もう1つの世界大会であるオーストラリアでのレースも含め世界大会5連覇の快挙だ。「ソーラーカーには、私たちの未来に欠かせない技術がつまっている」とチームを率いる木村教授は語る。地球温暖化やエネルギー問題が叫ばれるいま、果たして、ソーラーカーの研究・開発にはどのような意義があるのだろうか。

 大会の正式名称は「サソール・ソーラー・チャレンジ・サウス・アフリカ2012」といいます。国際自動車連盟(FIA)公認で、2年ごとに開催。総走行距離は4632kmで、東京-大阪間が約500 kmですから4往復半走った計算ですね。それだけの長さを11日間、71時間13分で走り抜けました。とにかく、過酷なレースなんです。大学を中心に14チームが参加しましたが、規定時間内に走り切ることができたのはわずかに2チーム。高低差が2000mもあるので、モーターの調整などがとても難しく、私たちもレース中、モーターのオーバーヒートに遭うなど苦労しました。アメリカやヨーロッパの強豪チームがひしめくなか、オーストラリアの大会を含め「よくぞ世界大会5連覇を成し遂げることができた」と思います。
 下の写真が、私たちのソーラーカー「東海チャレンジャー」です。全長4m98cm、幅が1m59cm、高さは88cm、重さは136kgしかありません。今回は「2011年型」の修正だったので短期間ですみましたが、一からつくる場合、設計に半年、製作に同じく半年、合計1年近くかかります。私も含めたスタッフのアドバイスもありますが、基本はすべてを学生が行う。もちろん、協力企業を探すところから部品の調達、現地へのロジスティック(運搬)までも、です。今回は、ドライバーも5人中4人は学生が務めました。
 東海大学がソーラーカーの研究を始めたのは1991年のことでした。私は96年から加わりました。その後、いろいろな形で国内外のレースに参加してきましたが、すでにお話したように現在は学生主体のチーム編成です。2006年、東海大学にチャレンジセンターという組織ができ、学生たちがプロジェクトに取り組んでいる。ソーラーカーもそのプロジェクトのひとつで、学生たちは専門知識だけでなく社会的な実践力などいろんなことを学んでいます。その気になれば、誰でも参加できるんです。
 大学による教育活動の一環ですから、予算はそれほど潤沢ではない。それでも、学生の頑張りや多くの人たちのサポートがあって、世界一になった。とくに、2年に一度開催され、世界最高峰のレースといわれる「グローバル・グリーン・チャレンジ(ワールド・ソーラー・チャレンジ)」に、初めて優勝したときはうれしかったですね(2009年)。オーストラリア大陸3000kmを約30時間で横断し、13か国32チームの頂点に立った。こちらの大会も、2011年に連覇を果たしているので、名実ともにいま東海大チームが世界一です。来年開催されるその大会も、優勝を目指さなければ決して届くものではないので、当然、6連覇を狙います。


(世界大会5連覇を果たした東海チャレンジャー)

日本のものづくりの“結晶”

ソーラーカーの仕組みは、ガソリン車のそれにくらべ極めてシンプルだ。必要なのは太陽電池、モーター、タイヤ、車体の4つ。レースカーには蓄電システムなども加わるが、それでもガソリン車に比べると部品の数は少なくてすむ。ただし、太陽電池で発電できる電力はそれほど大きくない。その弱点を克服するために、技術開発が進められ、さまざまな工夫が凝らされている。それが「私たちの未来に欠かせない技術がつまっている」と言われる由縁なのだ。

 たとえば、車体の上に敷き詰めた太陽電池は光を電気に換えますが、すべてが電気になるわけではありません。通常、太陽電池の変換効率(光エネルギーのうち何%を電気に変えられるかの割合)は10~20%程度。どれだけ変換効率を高めることができるかが重要になってくるわけです。「東海チャレンジャー」の場合、国内メーカーが開発した変換効率22%の太陽電池を使っています。
 しかし、それでもヘアドライヤー1台(または電子レンジ1台)分を動かす電力しかつくれないんですよ。そこで、少ない電力を無駄にしないモーターが必要になってきます。ここでも、3つのメーカーの協力を得て、100の電力のうち97を回転の力に変える、すごいモーターをつくりました。さらに、転がりやすいタイヤ、天気の悪く発電できないときでも3時間以上走ることができる蓄電池などなど――。まさに、「東海チャレンジャー」は日本のものづくり技術の結晶といっても過言ではありません。
 車体にもいろいろ工夫を凝らしました。空気抵抗を極限まで減らすために、コンピュータを使って何度もシミュレーションをして、流線型のデザインを生み出しました。軽くするため、強度が高い炭素繊維を使用し、さらにサンドイッチかつハニカム(蜂の巣)構造の素材も採用しています。結果、1000kgから1800kgはある乗用車の10分の1以下にまで軽量化することができました。
 どれも世界最高水準です。そして、どれも実際の車づくりなどに、その成果を活かすことができます。エネルギーの効率化が叫ばれるようになったいま、ソーラーカーの開発・研究がいかに重要で意義深いものであるかがおわかりいただけたかと思います。
 ただし・・・・・・、最高水準のものを集めたからといっても、優勝できるとは限らないところが、ソーラーカーレースの難しいところなんですね。この点は料理と同じで、シェフの力量が問われる。どううまくパーツを組み合わせていくか、それぞれをどのように連動させるか、ライバルチームの分析なども勝負に勝つためには必須です。それらマネジメントやノウハウというべきものがとても大切なんです。学生主体ですから、4年経つとメンバーはすべて入れ替わってしまいます。だから、ノウハウの伝承は簡単ではありません。でも、学生たちは本当にうまくやってくれています。そこも東海大チームの強さの秘密なのだ、と思っています。


(約1年をかけソーラーカーを作り上げる)

未来に向けての大切な技術

木村教授は、まさに機械少年だった。小さいころから動くものに興味があって、科学や技術の本を読みふけったという。ロボットにも興味があり、その開発を夢見て大学では電子工学を専攻。お父様が研究者だったこともあり、自然と同じ道に進んだ。もっとも、算数や理科のテストがよかったわけではないそうだ。どちらかといえば点を取るのは苦手。でも、目標を持ったから、研究者・科学者になれたのだ、という。嫌いな勉強も頑張れた、と強調する。

 ここまで見てきたように、「日本のものづくり」はすごい。中学生や高校生も、自分たちの未来はこういった新しい技術で築かれていくことを、ぜひ知っておいてください。そして、一人でも多くの子どもたちに科学や技術に興味をもち、目標をもって進んでもらいたい。そうすれば、学校の勉強も頑張ることができるし、日本という国は進歩していきます。とくにエネルギーの分野は、日本だけでなく世界の将来にかかわる重要な問題なので、この記事をきっかけに関心をもってもらえるととてもうれしいですね。
 20世紀は「石油の世紀」といわれました。石油を使ってエネルギーが生み出され、ナイロンやビニールなど、いろいろな化学製品もつくられてきました。しかし、石油は無限ではありません。使い続ける限り、いずれなくなってしまいます。だから、私たちは石油に頼らない社会をつくらないといけないわけです。また、石油は燃やすとCO2を排出します。これが、地球温暖化に影響を与えていることはみんなも知っていますよね。CO2を出さない太陽電池など自然エネルギーの活用は、その意味からも重要なんです。
 私はソーラーカー技術の研究・開発を通じて、よりよい社会をづくりに貢献できる、と思っています。ソーラーカーそのものも、私たちの身近な存在になる時代が、そう遠くない将来訪れる、と考えています。ただし、私たちが自動車との付き合い方を変えれば、それをもっともっと早めることができるんです。たとえば、普段は徒歩や自転車、電車を使う。その間に、ソーラーカーに太陽電池でつくった電気をためておく。どうしても車で移動したいときだけ、ソーラーカーを使う。こういった使い方なら、いまの技術で十分、ソーラーカーは街中を走ることができます。
 石油に頼らず、自然エネルギー中心で暮らす社会。難しい挑戦ですが、みなさんと一緒になって考え、実現に向け歩みを進めていきたいですね。期待しています。
《文=WAOサイエンスパーク編集長 松本正行》


(技術力に加えチーム力も優勝の原動力)

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